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2021/02/16
進行大腸癌は外科切除が不要??

ニュースで進行大腸癌には外科切除は不要であるという結論が出たと報道されていました。

これは本当に驚きの報道でした。

ただ、この報道を素直に受け止めすぎて「外科切除できないといわれたらあと化学療法しかないのかあ、じゃあもう治らないかも・・・」と思い込むのは違うかと思います。

切除できない方に対して化学療法を組み合わせて外科治療を行うことで延命効果があった、あるいは、治癒できたと思われた患者さんも私は目にしてきたからです。

報道のもとになった論文を見てみると、いわゆる直腸がん(おしりからすぐにできるがん)は含まれていません。1−3個の切除不能病変が肺や肝臓、腹膜などにあること、腸閉塞症状がない、活動性の出血もしくは腸穿孔・瘻孔形成がない、が条件になっています。そうした患者さんに対して「大腸のがんだけはまずは取り除いておこう、のちのちきっと腸閉塞や出血の原因になるから。そのあとで化学療法を行おう」とうグループと、「最初から全部化学療法しましょう」というグループに分けて調査がされています。また、最初に行われた化学療法の種類が限られています。ですので、この条件に当てはまる人に対する化学療法前の大腸原発巣切除の意義を検証したということです。

そもそも切除できない人って何か?というと、大腸のもともとのガンはとりきれるけど、遠くに飛んでしまったがんに対しては外科治療が難しいという場合に確かにがんを治すための手術はできないよね、ということです。そしてこうした方への化学療法導入前の切除とは、「もともとの大腸にあるガンを残しておくと、出血したり腸閉塞を起こして食べられなくなったりすることがあるので、まずはその懸念がないようにもともとの大腸のガンを切除をしておいて、そのあとで残っている転移した腫瘍を治療するために化学療法をしましょう。」ということであり、これがいままでのスタンダードでした。ただ、「そんな予防的な手術をしなくても、化学療法をやれば腫瘍が随分と小さくなる時代になってきていて、実際手術など痛みを伴う治療をしなくても、抗がん剤を頑張って受ければ、多くの人が、大腸の腫瘍から出血したり大腸の腫瘍が大きくなって詰まったり、あるいは腫瘍が抗がん剤でたたかれすぎて腫瘍がなくなりかえって大きな穴が開いたりといった怖いことを起こすことなく最期まで治療ができ、そうした外科回避型の治療を内科的に行っても余命に差はないよ」ということを今回は科学的に証明したということだとおもいます。でもこれは日本が世界に向けて発信した前向きの臨床試験のたいへん素晴らしい結果だと思います。

一方、この試験の中で化学療法が良く効いてのちのちに根治的な切除が施行できた患者さんもいらっしゃったそうで、原発巣切除ののちに化学療法を行った人たちの3%、化学療法を最初から行った人たちの5%だったそうです。また、やっぱりもともとの大腸がんのせいで、あるいはその他の症状のため、例えば腸閉塞などを起こして、化学療法だけで治療をしていたが外科治療介入が必要だった人たちが13%だったそうです。化学療法を行っていても外科切除に持っていける人がいることがこの報告の中でも示されていました。

ですので、無理やり切除を行う必要はないということは正しいと思いますが、この結果は外科医に対する戒め、つまり安易に手術をするのではなく、化学療法をとことん行う選択も患者さんによってはよくよくかんがえなさい。ということだと思います。あるいは、化学療法が効いて切除できないと思われていた腫瘍が切除できる状態になったならば切除をし、延命や治癒を求める道も医師にも患者さんにもまだまだ残されていると思いますので、この結果を、短絡的に(患者さんの希望を損なうような)解釈するのではなく(この人は遠隔転移があって外科治療できないから外科の治療対象じゃないし治癒はむすかしいと考えてしまうのではなく)この報告の意味をきちんと理解して、希望をもって、医師も患者も大腸がんと向き合わないといけないということだと思いました。